海外取引の翻訳報酬受取り方法

2018年にIJETで登壇し、翻訳業の海外取引についてをしました。その時に報酬の受取り方法についてもいくつか紹介したのですが、今は従来の受取方法がもっと便利になりましたし、さらには新しいサービスまで出てきています。当時紹介した内容も多いのですが、補足しつつ情報を共有したいと思います。日本国外の企業・エージェントと取引をしている、またはこれからしたいと考えている方の参考(見直し含め)になれば嬉しいです。

1.報酬受取り方法

海外取引で外国の企業から報酬を受け取るには色々と方法があります。まずパッと思いつくのが、日本に開設している自分の銀行口座への直接送金だと思います。銀行間で手数料に結構差がありますが、ネット銀行でも地方銀行でも、ゆうちょ銀行でも、各銀行で提供されている海外送金を受け取るのに必要な正しい情報を請求書に記載して先方に知らせさえすれば海外送金を受け取れます。よく聞くのがPayPal。日本でももう10年以上の歴史がある元祖FinTech企業で、通販の決済でクレジットカードや銀行振り込み以外の選択肢としてもよく名前をみかけると思います。ただビジネスの報酬受け取りを目的に利用する際の受取手数料が割高です。ほかにも、PayoneerWise(旧TransferWise)。最近ではVeemRevolutといった資金移動サービスも出てきており、報酬を受け取る方法は選択の幅がますます広がっています。

2.日本の銀行に直接送金してもらう
  • 受け取りに4000円の手数料を徴収されることがある(被仕向送金手数料1500+日本円建て受取手数料2500円)
    現状、新生銀行およびソニー銀行は被仕向送金手数料を取っていないので、外貨建て受取りは手数料無料です。(新生銀行は201912月半ば以降、被仕向送金手数料を差し引くようになりました。ただし所定の条件を満たす送金受取りについては相当額の2000円が後日キャッシュバックされるので一応まだ(2021425日現在)実質ほぼ手数料無料です。詳細
  • 現地送金手続き後、着金までに1-4日かかる
  • 土日祝は銀行が休みなので着金しない
  • 銀行からどういった目的の送金を受け取るのか確認の電話がかかることもある
  • クライアント側も高い送金手数料を払うのであまり好まれない
3.PayPal経由
  • 受取手数料が高い3.40%~4.10% + 固定手数料
  • 払い出しレートが悪い(▲2~4円/1通貨額)※引き出し時に日本円に換金されます(外貨のまま引き出させてほしい…
  • 土日祝でも支払い元が手続きしたら即着金
  • 着金後、銀行への引き出しに1-3日かかる
  • 受け取り通貨は22種類送金国を限定しない。個人可
  • Paypal口座のお金はネット通販などのPaypal決済に直接活用できる。
4.Payoneer経由
  • 日本の銀行への引き出しに1-2日かかる比較的早い方
  • 払い出しレートが悪い(▲2~4円/1通貨額)※引き出し時に日本円に換金されます(外貨のまま引き出させてほしい
  • 報酬受取手数料は無料
  • USD口座のみ、毎月口座維持手数料がかかる(2.50 USD/月)
  • 受け取り通貨は現在USD、EUR、GBP、AUD、CAD、HKD、SGD、MXN、JPYの9種類。
  • マルチカレンシー口座(EURだとIBANGBPだとソートコード・口座番号などユーロ圏や英国など現地の銀行口座を得られる)を持てるただし、GBPは英国から、USDは米国からの送金のみしか受け取れないなどの制約がある)。取得は無料
  • 登録法人からの支払い受け取りのみ可能。個人からの支払いを受け取ることは不可
  • クライアントは自国/SEPA圏内送金なので自社の送金手数料を抑えられる
5.Wise(旧TransferWise)経由
  • 報酬受取手数料基本無料受取通貨・方法によっては手数料発生
  • 換金レートは公示レート(なのでPayPalやPayoneerみたいに払い出しレートが悪くない!)
  • 外貨のまま日本の銀行口座に引き出せる(外貨送金扱いのため、銀行の受取手数料を差し引かれる)
  • 換金手数料と引出し手数料が安い(外貨を受け取って、日本円に両替してから日本の銀行口座に引出しをかければほかより断然手数料がお得。いつか、合計1406.00 GBPを出した時は、円両替で8.17 GBP、引き出し手数料で265円。合計約1200円でした。)
  • 時間や曜日、日本国内の引出し先銀行などの条件によるが、日本円に換金してからなら深夜に引出しをかけてもすぐに着金する(ただし、新生銀行に引出しをかけた場合です。ほかの銀行では確認していません)
  • 先方は現地通貨で支払い、こちらの受け取りは日本円(居住国通貨) マルチカレンシー口座で10通貨を受け取れる(2021年4月25日現在)
  • マルチカレンシー口座(EURだとIBAN、GBPだとソートコード・口座番号などユーロ圏や英国など現地の銀行口座を得られる)は、GBPを英国内・英国外から、USDを米国内・米国外から受け取れ、Payoneerと異なり送金国の通貨でないといけないという制約がない。口座開設初回のみ3000円の支払いがいる
  • 法人からも個人からも支払いを受け取れる
  • マルチカレンシー口座にある通貨を直接引き出せる、ATM用デビットカード(Mastercard)をもらえる(EURをヨーロッパで引き出せるなど)
  • クライアントは自国/SEPA圏内送金なので自社の送金手数料を抑えられる
6.Veem経由
  • 受取通貨はUSDとJPYのみ
  • (まだ)米国企業からの受け取りにしか使えない
  • 報酬受取手数料基本無料(受取通貨・方法によっては手数料発生)
  • 外貨のまま日本の銀行口座に引き出し(外貨送金扱いのため、銀行の受取手数料を差し引かれる)
  • 日本の銀行口座への引出しには1~2日かかる
  • 先方がいつ支払ったかがわかる
  • 馴染みがないからか、米国の企業側があまり使いたがらない(個人的な印象です)
7.Revolut経由
  • ビジネスアカウントの日本展開はまだ(2021年4月25日現在)
  • GBP受け取りに使える英国の銀行口座を取得できる
  • 日本での利用がはじまって情報がもっと得られるようになれば、追記予定
8.受取方法比較表

1€≒130.00円(参考)。銀行手数料は一例です。実際の受取手数料とは異なる場合があります。
上記はあくまで参考です。実際に報酬を受け取る際は、金額に若干差異がある場合があります。
*同サービスは受取通貨および支払側の契約によって適用手数料が異なります。また、銀行に引き出す際はPayPalのレートが適用されます(銀行の当日レートより2-4円安い)
**同サービスのユーロ受取口座で報酬を受け取ると受取手数料は無料ですが、銀行に引き出す際はMastercardのレートが適用されます(銀行の当日レートより2-4円安い)
***同サービスのユーロ受取口座で報酬を受け取ると受取手数料は無料です。外国通貨を日本円に両替する際にはネットの平均公示レートが適用され、少額の両替手数料(0.5%?)が発生します。日本の銀行に引出しをかける際に引出手数料がかかります。上記例は過去の自分の記録を参考に引出手数料として265円を差し引いていますが、実際には金額に差異がある場合があります。
Veemから日本に銀行に引き出す場合は通常の外貨受け取りと同じ(銀行の例に倣う)ため、比較から割愛しています。

管理が面倒だから受取方法を統一したい(手数料かかってもいいから銀行一本で、など)という方もいらっしゃるかと思います。もちろんそれはそれで一つの考え方ですし、管理の手間を優先する場合は有益な判断だと思います。私個人は数件の受取方法管理が手間だとは思っていないのと、お客さんの支払い方法に合わせて柔軟に、対応可能な報酬受取方法を提示するのも一つのサービスだと捉えて、上記で紹介した方法を使い分けています(PayPal は最終選択肢ですが、仕方なく使うこともあります…)。日本の企業も、支払う側が比較的都合の良いものを選べられるよう、地銀や都市銀行の普通・当座を合わせて4~6口座請求書に記載していることがあると思いますが、それと似たようなものだと考えています。個人的には、欧州/英国の会社からはEUR/GBP建でWiseに送金、米国の会社からはUSD建でVeemに送金、それから月の決まった日にまとめて日本の口座に引き出しするのが一番手数料が得だなと感じてます(銀行口座への直接送金は都度4000円程度差し引かれることを考えれば、5件、10件をまとめて、外貨引き出しにしろ円両替後の引き出しにしろ手数料をかなり抑えられます)。

フリーランス翻訳者の消費税申告云々

久しぶりの記事投稿。記録と参考に。昨年の確定申告額を基に消費税課税事業者手続きが必要となるのではと思い、諸々調べて手続きをしてきました。

※2023年2月14日付けで簡易課税と原則課税の選択について追記をしています。これについては記事末の追記をご覧ください。

課税事業者の基準と疑問

国税庁のウェブサイトには、ある事業年度で課税売上高が1000万円を超えると翌々年度の消費税課税事業者になると書いてあります。私の場合は毎年8-9割方が欧米への納品で、欧米の発注者視点では国外取引(私)に消費税を払う必要はないので、私は消費税を預かっていません。そのため、その売上分がここでいう課税売上高にあたるのだろうかという疑問が湧きました。ネットではぼんやりと触れているものの、なかなかこのあたりを具体的に説明している情報が出てこない。これか!というものもよく読むとその先の話を説明しているようで求めている情報ではないようです。確定申告を終えた3月にちょっと気にはなったものの、コロナ禍で外出も控え気味(わかったら速やかにとあるけど、勝手に)まぁ今年中に出せばいいだろうと謎の自信をもって結局税務署に相談しに行ったのは10月。調べるなかで見つけた税理士さん数人のウェブサイトに海外納品については消費税を納める対象にならないとあったので、とりあえずそこまでの情報をもって相談に行きました。

海外事業者への役務提供は国内取引?国外取引?

先の税理士さんのウェブサイト情報もあるし国外取引なんじゃないの、決まりでしょという頭で税務署を訪問。その時対応してくださった方の説明だと国内外云々のところは特に触れられず、海外に納品してるからそれは課税されない。だから課税売上高に含まれないので(実際は国内取引で課税ですが、それは後述)、1000万円に満たない。それでも課税事業者になる場合は、消費税課税事業者選択届出書を出すのだと。また、預かっている消費税より経費で払ってる消費税の方が多いから還付されるはずと言われ、ただ間違いがあってもいけないので一度中で確認したいからと特にその日は何も提出しませんでした。すると後日電話が。

担)先日のお預かりした話を内部で確認したところ、国外に納品した役務も国内取引なので、消費税を納めることになります。
私)えぇっ!?でも消費税受け取ってませんよ??納めるも何も預かってないのに納められませんよね?
担)内税として…
私)いや、だから預かってないんですって
担)じゃ先方に消費税を請求してください
私)?!!!(↑できません)
(多少表現に違いはあるかもしれませんが大げさな脚色一切なし)

電話での押し問答の末、電話口の担当者の方も、預かってない消費税納めるよう言われても私の立場になったら納得できないですよねーという流れでもう一度確認してもらうことに。私の方でもさらに調べてみたところ、次の説明が国税庁ウェブサイトにあり、このことを伝えて再確認をしていただきました。

結果、日をおいて、「海外事業者への役務提供は国内取引になるが、免税対象となるため、かかる国外売上の消費税は免除される」(2020年10月12日現在)という最終判断の電話がありました。後日税務署を訪問し、担当者さんに対面で上記判断を再度説明してもらい、細かく確認してもらったうえで消費税課税事業者選択届出書を出しました。

(消費税課税事業者選択届出書は、課税売上高1000万円に満たない免税事業者も敢えて課税事業者になることを「選択」することができます)

ここでまた疑問が。結局この選択届出書にある課税売上額に書く金額は売上高合計?それとも海外分は差し引くの?免税の前にまず、国内取引(課税売上)であるかが判定されているため、税務署での説明は「国内事業者への売上高 + 海外納品分の免税対象売上高」、つまり国内外の翻訳売上高合計とのことでした

ここまで一つ一つのことが消費税法等の何条を根拠にされるのかが不明で納得がいかず悶々としていましたが、最終的には「消費税のあらまし」に丸っと書いてあったんです(全部書いてあった…3月の時点でここにたどりつけていたら… orz)、個人的に抱いていた疑問はすべて解消され手続き完了となりました。

消費税還付申請手続き

事業主は、預かっている消費税と支払った消費税の差分を国に納めます。でも上述の通り私はほぼ預かっている消費税がなく(課税取引だが免税)、経費で支払っている消費税の方が多いので、差分が還付されます(重要な参考:No.6205 非課税と免税の違い)。e-Taxでも還付申請手続きできるそうで、思ったより気分が楽です。※1

適格請求書等保存方式(インボイス制度)

「令和5年10月1日から消費税の仕入税額控除の方式として、適格請求書等保存方式が導入されます」なる消費税関連の新制度。個人事業主はこの登録を済ませてないと令和5年10月1日以降消費税を請求できません。そしてその登録には課税事業者になっていないといけないという前提条件があります。時期が近くなったらまた話が変わっているかもしれませんし、来年か再来年かに記事にしたいなと思います。

参考)コラム≪適格請求書等保存方式の導入について≫

おまけ

課税売上高が1000万を超えると知り得たら速やかに、というのは事業年度が終わってまとめた時点ではなく、日々帳簿をつけてそうなった時点でということだそうで、私みたいに確定申告でわかったというのもほんとは遅い話(と言われたんですが、でも届出書には基準期間の確定売上高を書くので、実質基準期間の売上記帳が締まってないと現実的に無理では?いや、まぁ12月末にぎりいけそうですけどさすがにそれは…)。課税事業者となるのは、課税対象期間(1000万円を超える事業年度)の翌年度からなので、たとえば2020年のどこかで届け出しても、その翌年2021年度から課税対象、消費税申告をするのは2022年3月に2021年分を。2020年は届け出ただけで課税事業者ではないため2021年3月に2020年分の消費税を申告することはできないとのことです。なので、本来は、2019年の年末までにきちんと売上高を把握して申請も済ませて、2020年に課税事業者となり、2021年3月に消費税申告をするのが正しいという…ここはやはり基準期間の売上高が確定していなければ書けないと思われます。要税務署確認)。そっかー、そんなすぐ還付してもらえないか…と思ったんですが、届出書ではなく選択届出書を出す場合はこの申告期間を1年ではなく1か月ないし3か月ごとという「選択」もできるそうです。なので、2020年中に選択届出書を出して、さらに3月毎申告に期間変更をしておけば、2021年1〜3月の消費税申告を同年5月31 日までにすることができます。ちょっと早く還付を受けられます(ただし、2年縛りがあって、2年経つまで申告対象期間を3月から1年に戻せません)。私にとってのネックは…、毎月ちゃんと売上と経費を帳簿につけること。

ややこしい…色々質問攻めをしてしまいましたが、昼休憩前に色々細かい男に小一時間付き合ってくださった職員さん、ご丁寧にありがとうございました。

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注)本ページに掲載している国税庁ウェブサイトへのリンクはすべて2020年10月21日現在のものです。これ以降、リンクが無効になっていることもありますのであらかじめご了承ください。上記はすべて、あくまで参考に留め、常に最新情報をご自身で確認していただくか、または所轄税務署ないし顧問税理士に相談されることをおすすめします。

2021年1月22日追記:今年も、確定申告の時期が近づいてきましたね。日本翻訳連盟(JTF)のJTF翻訳祭で以前、「翻訳業を営む個人事業主向けの適正な会計処理について」と題してフリーランス翻訳者向けに帳簿処理の話をしたことがあります。翻訳業をはじめて帳簿処理でお悩みのかたの参考になればと、当時の資料を公開しています。資料のダウンロードはこちらの以前の記事からどうぞ。

2023年2月14日追記:※1 消費税還付は原則課税を選択した場合にのみ受けられます。海外取引が主で預かり消費税より支払っている消費税の方が多くて還付対象となる事業主の皆さんは課税制度の選択にご注意ください。簡易課税はみなし仕入れ率を使用するため消費税の計算が楽という特徴がありますが、消費税課税事業者届出書を出す際に簡易課税を選択してしまうと、還付は受けられません。原則課税を選択している場合にのみ消費税還付を申告できます。インボイス制度の開始が近づき、同業者間で簡易課税と原則課税の話も上がるようになったため、追記してみました。ちなみに、私は税抜経理方式を採用し、普段の仕訳で売上や経費と消費税とを区分(仮払消費税・仮受消費税)しています。ただ区分して記録するだけの話なので、帳簿処理を普段からご自身でしている人でも正直これまでとそんな手間は変わらないかと思います。(簿記や細かい作業が好きという性格が前向きにとらえているのかもしれませんが…。あと、ざっくり計算するより細かい数字がでて自分の中でとてもすっきりしています…)

第28回JTF翻訳祭登壇資料

今年も参加しましたJTF翻訳祭。.゚+:ヾ(*・ω・)シ.:゚+。

2017年は10分登壇に応募しましたが、2018年は思い切って一セッションまるまるお時間(90分)をいただき

「翻訳業を営む個人事業主向けの適正な会計処理について」と題して登壇してまいりました。

僕は訳に直結するような内容での登壇は自信がありませんが、もっと周辺の事務的なこととかであれば話ができるかなと思い今回は最近個人事業を始められた方向けに翻訳業に係る普段の会計処理について(僕も税理士や会計士ではないので)経験談を具体的に共有する形で話をしました。スライド自体はたくさんあったんですが、割と早く終わり、最後の方は質疑応答をたくさん取ることができました。たくさん質問もいただいたので90分ちょうどよく使い切れたと思います。

本日の登壇資料は本ブログにアップロードしていますのでこちらからダウンロードしてご覧ください。※単式簿記についても簡単に触れていますが、あくまで一例です。白色申告か、発生主義で処理をするのか、青色申告で条件に該当する場合には税務署に申告のうえ現金主義で処理をするのかなどで処理の仕方は変わりますので、不明な場合は税理士や税務署によくご確認ください。

来年、セッション公募があったら何をネタに話ができるか考えてみよう。

2018/10/28 追記:

セッションのとき、そういえば売上の記帳について役務の提供は請求日ではなく納品基準で計上と根拠も示して話し、売掛金の受け取りまで仕訳例に触れはしましたが、仕訳はどれも単一取引のみで複数取引を扱って説明しなかったのでここで一つ追記整理しておきます。

確かに納品日ごとに売上を計上しますが、小さな案件を扱うことが多い方は特に、請求をある程度まとめてするので、売上計上は一つ一つでも売掛金の受け取りは複数分をまとめて受け取りますよね。

このとき、先般の売上ごとにちまちま入金処理(売掛金が減って預金が増えるなど)を一つ一つ仕訳するのではなく、その日にまとめて受け取るので入金処理は取引先ごとに合計額を仕訳しても構いません。ただし、摘要にはどの売上分が含まれているかは明記しておかないとわかりませんね。オンラインソフトで摘要欄の文字数が制限されている場合は工夫が必要です。

以下例です。

1. 2018/10/1に12000円分の翻訳成果物をA社に納品した。
2. 2018/10/3に2000円分の翻訳成果物をA社に納品した。
3. 2018/10/14に150,000円分の翻訳成果物をB社に納品した。
4. 2018/10/17に30,000円分の翻訳成果物をB社に納品した。
5. 2018/10/29に200,000円分の翻訳成果物をA社に納品した。
6. 2018/10/31に上記納品分の請求書を会社別に作成し、それぞれ請求した。
7. 2018/11/10にB社から10月請求分の入金があった。
8. 2018/11/15にA社から10月請求分の入金があった。また、A社は振込時に銀行振込手数料324円が差し引かれている。
備考:両社ともに入金時に10.21%の源泉徴収が差し引かれていた。(小数点以下の切り捨て、切り上げ、四捨五入は先方によって異なります)

単式簿記(売上については原則発生主義。現金主義を選択している場合、お金に動きがあった時だけ記帳。以下は現金主義での例

仕訳対象(上記例の番号) 日付 勘定科目 金額 摘要
7 2018/11/10

売上

事業主貸

180,000(入金)

1,838(出金)

B社10月請求分(10/14, 10/17納品分合計)
8 2018/11/15

売上

事業主貸

213,676(入金)

2,185(出金)

A社10月請求分(10/1, 10/3, 10/29納品分合計)

*売上値引(振込手数料分)324円あり。

※8の源泉徴収は元の214,000円に対して計算されると思われます。

複式簿記

仕訳対象(上記例の番号) 日付 借方 貸方 摘要
1 2018/10/1 売掛金 12,000 売上 12,000 A社納品
2 2018/10/3 売掛金 2,000 売上 2,000 A社納品
3 2018/10/14 売掛金 150,000 売上 150,000 B社納品
4 2018/10/17 売掛金 30,000 売上 30,000 B社納品
5 2018/10/29 売掛金 200,000 売上 200,000 A社納品
7 2018/11/10

普通預金 178,162

事業主貸 1,838

 

売掛金 180,000

(貸方も行ごとに

仕訳しても良い)

B社10月請求分(10/14, 10/17納品分合計)
8 2018/11/15

普通預金 211,491

事業主貸 2,185

売上 324

売掛金 214,000

(貸方も行ごとに

仕訳しても良い)

A社10月請求分(10/1, 10/3, 10/29納品分合計)

※1: 売掛金は大体補助科目に社名などを用いて細分化して管理すると思います(手記帳だと売掛金/得意先元帳とか)。A社・B社の入金日が同じ日になってもわかりやすいように別々に仕訳しましょう。

※2: 先方が支払う際に売掛金の支払いから銀行振込手数料を差し引く行為は色々な仕訳方法があるようです。[売上] がなかったとして処理するのではなく、[支払手数料] 勘定を用いて処理する方法もあれば、[売上値引] という勘定を設けて処理する方法など。消費税納税義務者の方はこの処理の違いに影響を受けるので特に注意が必要ですね。ここは税理士の方々は意見が分かれるそうで、相談される税理士によって違う回答があると思われます。まぁ、一番は居住する地区管轄の税務署に「答えて」もらうのがいいかもしれませんね、もちろん担当者の名前と回答日もメモして。でも僕は『厳密に言って自分が支払った』わけではない(受け取る前に差し引かれている)この振込手数料が [支払手数料] で処理されることに違和感がある(という意見もある)に賛成なので、[売上] から差し引くようにしています。日本は民法第485条で『別段の意思表示がない場合は』弁済に掛かる費用は債務者が負担することとなっているようですが、国内については僕はまだ振込手数料の負担はないかな。報酬の振込に際し手数料を差し引くとエージェントが契約書に明示しているところがあるんですよね、特に海外。海外は契約書の修正を主張することにあまり良い反応はされないと思いますが、国内はこの第485条のこともあるしそこを敢えて明示して受取人負担ってしてくるんでしょうね、「契約書読んだ?受取人負担って書いてあるでしょ」って。契約時に思い切って負担したくない旨を主張してみるのもビジネスの駆け引きだと思います。

第29回英日・日英翻訳国際会議(IJET-29)登壇資料

諸事情により時間がとれず資料の公開が予定より 1 週間遅くなりましたが、6 月 29 日(金)~ 7 月 1 日(日)に行われた iJET29 で登壇した際に使用した資料を公開いたします。

iJET29 – 7/1 Slot 8 – 15:00~16:30 「知っ得!海外の翻訳会社と取引を始める前に」登壇資料

当日質疑応答の際にあった法人税法(法人)と所得税法(個人事業主)についてのご指摘について、外貨取引処理について改めて確認の上、補記という形で所得税法の場合もスライドを足しております。当日聴講してくださった方も、事業形態を確認の上、どちらで処理をするのが正しいのか改めて確認していただけたらと思います。ご指摘くださった方、ありがとうございます。

実際には、法人の会計処理と個人事業主の確定申告では考え方や処理が同じ部分が多いです。とはいえ、細かい点をみてくと、個人事業主の場合所得税法に則って処理する必要があります。こちらのサイトでは、[ホーム] > [Ⅱ個人事業主・法人会計] > [第2章 会計の目的と処理基準] のページで、図解を用いて分かりやすく説明されています。

後半、外貨取引を複式簿記で帳簿処理する例を出しましたが、この例でいうと、参照する税法とその条項が違うものの、ほとんどの処理が同じです。
一か所だけ参照する税法の違いにより法人ではするけれども個人事業主ではしない処理があります。年度末の為替処理(期末時換算法)です。
所得税法ではこの年度末の処理が税法上定められていないため必要ありません。

当日は色々と話をしたいことはありましたが、あれも言いたいこれも言いたいではまとまらなくなるので要点を絞ることになりました。
(支払いの諸問題と煩わしさを除けば) 海外取引にも魅力的な点は多くあり、やりがいは十分にありますよ 🙂