僕が在宅で翻訳の仕事を受けるようになったのは2012年のこと。本当は前々職を離れた2009年秋頃から既に在宅翻訳という道も考えていましたが、当時確か2社の日英トライアルを受けて惨敗。1社には「派遣で社内翻訳・通訳ならできるレベルだろうが、在宅で依頼するには修正が多いので使い物にならない」ときっぱり言われ、やっぱりまだまだ実力不足なのかなーと思い知らされつつ、再就職に再々就職を重ね母校の英文事務に落ち着きました。

母校での仕事に少しずつ慣れて1年くらい経った2011年夏、前々職と前職の通訳・翻訳という朝から晩まで外国語に触れる仕事が懐かしくなり(英文事務って、結局は事務ですから)、休みの日にまたエージェントを調べたり、トライアルを受けたりということをするようになりました。前にトライアル不合格になった2社のことがあったので、慎重になりつつも、結果はここも不合格。

 

  • 固有名詞や専門用語の訳出に間違いがないか関連書籍や企業のウェブサイトから調べて裏付けもとりました。
  • 些細なミスも出さないよう確認に確認を重ねました。

でも、
「何で落ちるのかなー。そんなにこの訳文ダメかね」
というのが、それまでのトライアルへの正直な気持ち。
↑こういう「ちゃんと~したのに、なんで!?」という主観的な評価でしか「反省」できない姿勢がダメだったんでしょうね。
(反省できてない)

 

この時は、某クラウド系のG社がとっかかりやすそうだったこともあり(だから翻訳会社3社目?もう少しあったような)、そこのトライアルに挑戦し続けていたのですが、なんと3回までしか受けられないという条件付き。不合格だと書いたのはここで、すでに3回目のリーチがかかっていました。
(後でよく調べたら、3回連続で落ちたら勉強しなおして1年後にまた受けてね、とありました)

「もう後がない」というのは大げさですが、
・・・今までのも、何か見落としてるんだろうな
と考え、とりあえず落ち着いて自分の訳文を読み直すことにしました。

いつなんどきも自分自身を信じられることは自信に満ちていて素晴らしいことですが、
何事も過信はよくないですね。真実が見えなくなる。
(疑ってばっかりも先が見えなくなるというか、キリが無いので「よし、これでいこう!」という思い切りも必要ですが)
何はともあれ、僕はここで読み直したことで、一歩、在宅翻訳の仕事開始に近づきました。
「普通に」訳したら一か所だけ文脈に合わない訳出になるフレーズがあるんですよね。
読んでて、
これ、何でここにいきなり出てくるんだろう。
という。
辞書見ても訳出はそれしかなさそうなのに、文脈に合わずここだけ文が浮いて見える。
この表現、もしかして他に意味があるんだろうか。
と思って英英で調べてみたらビンゴ。英日辞書にはない意味が説明されていました。
パズルがスポッとはまって完成したように、訳文に1か所だけ浮いていた違和感がきれいに消失。

これだ!

と思いました。これは絶対いける、と思いつつ提出したトライアル。
無事、合格できました。ヾ(。・ω・。)ノ゙
初合格は本当に嬉しかったです。

この時に、あくまで一端とはいえ、「トライアル」というものを理解できたように思います。
その後は専門外の医薬・医療や(かなり凝った)芸術、苦手な電気・化学などでない限り(なら、手だそうとするなよ)トライアルで落とされることはめったになくなりました。あれから6年(きみ〇ろじゃないよ)、レートアップや希望する分野の受注件数を増やすために毎年5-6社はトライアルを受ける中で、得意分野(技術、法務、一般ビジネス)のみに限って集計すると全体で大体8割強は合格しています。最近でも落ちることはありますけどね。落ちたトライアルはそれで終わりではなく何が至らなかったのか徹底的に調べて勘違いの駆逐と正しい理解に努めて次に生かしています。

 

駆け出しでトライアルに落ちてばかりの方は、どこかを間違っているかもしれないと客観的な視点からすべてを疑い訳文を一から見なおすことも大事だと思います。

  • 固有名詞・専門用語などの訳出

wikiやgoogle/ネット辞書で出てきたからと、それをただ当てはめるのではなく、企業が例えばウェブサイトや商品説明で正式に使用している用語か。
創作用語でなければ、トライアル出題範囲の業界で一般的に使われているか。

 

  • 自然な表現か読み上げ

自分の普段の話し方にも影響を多少受けると思うので、これって一番難しいように思います。「言うは易く行うは難し」ですね。修飾語句の文中に置かれる位置が適切かどうか。読み上げは確認しやすいですが、句読点の位置で読み上げると微妙にごまかされてしまうこともあるので注意が必要です。

 

  • 形容詞・形容動詞(-な/-い)、副詞、助詞、送り仮名

連用形や連体形といった活用、助詞を正しく使えているか。PCの変換で送り仮名が省略されていないか。

 

  • 誤字脱字

助詞忘れや送り仮名の省略以外にも、ケアレスミスの誤字脱字は駆逐対象です。

 

  • そもそも、普段使う表現が正しいのか

トライアルを受けた会社によっては、採点者のコメントをいただけるところもあります。
その時の指摘が目から鱗というか、以前にまして自分の普段使用する表現に注意するようになりました。
あくまで例ですが、
「~を鑑みて、」と「~に鑑みて、」
「いずれにも遵守しなければならない」と「いずれ(を)も遵守しなければならない」
(ちなみにどちらも後者が正解)
人は周囲環境から言葉を学ぶので、そもそも学んだ間違った表現を正しいものとして使用していることもままあります。
こうした点も客観的に疑って念のため調べてみると意外な間違いに気づくことも。気づく人(採点者)はやはり気づくものです。

 

  • 表現に統一性

アラビア数字と漢数字がいい例です。アラビア数字が正しいこともあれば、漢数字が正しいこともあります。でも、どちらを使っても差し支えないもの(例:1回と一回)であれば混用していないか。形容詞・形容動詞を訳すときは表現豊かに言い換えるのも技法の内なので話が変わりますが、固有名詞だと例えばmobile deviceを端末装置・モバイル機器・デバイス端末と文章内でコロコロ変えると特定の何か1つを指しているのか3つどれも互いに何か別のものなのか読み手は混乱します。産業翻訳だと、小説などの書き物ではないので「読み手が理解できないのが悪い」という姿勢で許されはしません。「読み手が理解しやすい文章を書く」という姿勢で仕事をするべきだと思います。

 

  • 辞書に記載されている用語の意味

大きな落とし穴だなぁと思います。上述の一件もあり、和訳だからと例えば英日・独日辞書を調べるだけではなく、英英・独独辞書も頻繁に参照するようにしています。

 

  • スタイルガイド

これは挙げるまでもないですが、翻訳会社から数字の半角/全角、括弧などについて指示があればそれに従っているか。

 

まぁ、今で考えれば当たり前のことを書き連ねましたが、トライアルに落ちる人はこれさえできてないこともあるんですよね。
実際の翻訳案件で原文に凝った表現がちりばめられていると書き手に合わせて訳すのに苦労しますが、トライアルによってはただ凝った表現があるのではなくて間違えやすそうな表現が用いられていたり、元の原文内で数か所そのような表現に言い換えて出題していることがあります。全体的にあまりに平易なトライアルが届いた場合、「よっしゃ!ラッキー」ではなくて(笑)、実は意地悪な問題がないのか疑う・見抜くことも重要だと思います。「ここ訳しにくいな」とか「ここだけなんか浮くな」という場合は、そんなパターンかもしれません。

トライアルには意地悪なものから本当に簡単なものまで、パターンは複数あると聞かれます。確認しようとしている点・受験者の資質がそれぞれ異なるのだと思います。もしかしたら訳文は採点のごく一部で、担当者とのやりとりや返信の早さ、フットワークの軽さなども考慮されているかもしれません。原文の中身を的確に捉えつつ、何をトライアルで試されているのか見極められれば、トライアル合格はグッと可能性が高まると思います。

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